安曇野市・大町市・松本市の相続・贈与・遺言の悩みを解決します。
寺坂誠税理士事務所・行政書士寺坂誠相続相談事務所
※この文章は令和6年1月1日以後の贈与について記載しております。
目次
ケースによっては大幅な節税が可能となる相続時精算課税制度ですが、内容を良く理解せずに実行すると手続きを忘れて相続時精算課税が適用できなかったり、相納税が多くなったり、贈与税以外の税額が多くなったり様々なトラブルに見舞われます。
相続時精算課税制度を利用する場合には、制度の内容を良く理解して納得の上で実行をして下さい。
又、相続時精算課税制度は、贈与の税務上の特例であり、その本質はあくまで贈与です。その贈与が相続トラブルを招かないか、良く理解して贈与を実行して下さい。
とはいえ、令和6年の改正により相続時精算課税制度に基礎控除110万が認められ、節税策としてはかなり良い制度となりました。
当事務所としても相続税の節税をお考えの方には積極的にお勧めできる制度となっています。
⑴受贈者=財産を貰った人のこと。贈与を受ける人。
⑵贈与者=財産を与えた人のこと。贈与を行う人。
⑶被相続人=亡くなった人
⑷相続人=亡くなった人の財産を引き継ぐ人
税務上の贈与には「暦年課税」と「相続時精算課税」の2種類があり、どちらか一方を選択することになります。
税務署に何も届出を提出しない場合暦年課税制度で贈与税が課税されます。
つまり原則は暦年課税となり、必要がある場合には届出書を提出し相続時精算課税制度を選択します。
一度相続時精算課税制度を選択した場合、暦年課税には戻れませんので注意が必要です。
原則的な暦年課税の贈与税額の計算方法は下記のとおりです。
基礎控除というのは贈与を受けた金額から控除できる特別な枠のことです。基礎控除までの金額については贈与税はかかりません。基礎控除110万ということは、110万まで贈与税がかからないということになります。
ただし、相続などにより財産を取得した人が、被相続人からその相続開始前7年以内(死亡の日からさかのぼって7年前の日から死亡の日までの間)に贈与を受けた財産があるときには、その人の相続税の課税価格に贈与を受けた財産の贈与の時の価額を加算します。
但し、相続開始前4年前の日から7年前の日までに受けた贈与については、総額100万迄は生前贈与の加算はありません。つまり、死亡の日からさかのぼって7年間の間に贈与をした金額は相続時に加算するというイメージです。
⑴一般贈与財産用(一般税率)
この速算表は、「特例贈与財産用」に該当しない場合の贈与税の計算に使用します。
例えば、兄弟間の贈与、夫婦間の贈与、親から子への贈与で子が未成年者の場合などに使用します。
基礎控除後の課税価格 | 200万円 以下 | 300万円 以下 | 400万円 以下 | 600万円 以下 | 1,000万円 以下 | 1,500万円 以下 | 3,000万円 以下 | 3,000万円 超 |
税 率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | ‐ | 10万円 | 25万円 | 65万円 | 125万円 | 175万円 | 250万円 | 400万円 |
⑵特例贈与財産用(特例税率)
この速算表は、直系尊属(祖父母や父母など)から、その年の1月1日において20歳以上の者(子・孫など)への贈与税の計算に使用します。
※「その年の1月1日において20歳以上の者(子・孫など)」とは、贈与を受けた年の1月1日現在で20歳以上の直系卑属のことをいいます。
例えば、祖父から孫への贈与、父から子への贈与などに使用します。(夫の父からの贈与等には使用できません)
基礎控除後の課税価格 | 200万円 以下 | 400万円 以下 | 600万円 以下 | 1,000万円 以下 | 1,500万円 以下 | 3,000万円 以下 | 4,500万円 以下 | 4,500万円 超 |
税 率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | ‐ | 10万円 | 30万円 | 90万円 | 190万円 | 265万円 | 415万円 | 640万円 |
原則として60歳以上の父母又は祖父母から、20歳以上の子又は孫に対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度です。
贈与をした年の1月1日において60歳以上の父母又は祖父母
贈与を受けた年の1月1日において20歳以上の者のうち、贈与者の直系卑属(子や孫)である推定相続人又は孫。
相続時精算課税を選択しようとする受贈者(子又は孫)は、最初の贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に納税地の所轄税務署長に対して「相続時精算課税選択届出書」を一定の書類とともに贈与税の申告書に添付して提出しなければなりません。
※1 受贈者ごとに年110万の基礎控除を控除します。贈与の額が110万以下の場合は申告不要ですが、初年度は届出を提出する必要があります。
※2 年間2,500万の控除ではなく贈与者ごとに2,500万の特別控除額となります。
相続財産に相続時精算課税制度を利用して贈与を受けた財産を加算して相続税の計算を行います。
相続時精算課税を利用して贈与を受けた場合、相続発生時に贈与を受けた財産の価額を加算して相続税を計算しますが、遺産総額が基礎控除以下など相続税が発生しない場合には、結果的に相続税・贈与税がかからず資産を移転することができます。
※全て無税というわけではありません。不動産取得時には登録免許税・不動産取得税、保有中は固定資産税などがかかります。
暦年課税の贈与税は贈与財産の価額が高額になると非常に高い税率で課税されます。
相続時精算課税を利用することによって、最終的には相続税率で課税されるため、生前贈与がしやすくなります。
結果的に、自分の意志通りに財産を承継させることができます。
自分の意志通りに財産を相続させたい場合、遺言が必要になります。その場合も、自分の意志通りに財産を相続させることが必ずできるとは言えません。相続人全員の合意により遺言と異なる遺産分割が可能となります。
贈与財産が不動産などで、これから値上がりが見込まれる場合、贈与時の価額で相続財産に加算されるため、相続税の節税につながります。
ただし、値下がりが見込まれる場合逆に相続税の負担が上昇しますのでご注意ください。
相続時精算課税制度を利用した場合、贈与税の課税価格から1年間で110万の基礎控除額が控除されます。相続財産に加算する額も基礎控除110万を控除した残額となります。
これは非常に大きなメリットです。暦年課税では相続発生日前7年以内の贈与は相続財産に加算されますが、相続時精算課税制度を利用した場合、年間110万まで課税されることがなくなり、永久節税となります。
ただし、受贈者ごとに年間110万ですので、父母の両方から相続時精算課税制度を利用して贈与を受けても基礎控除は110万までとなります。220万にはなりません。
この場合、相続時精算課税制度と暦年課税を併用することで基礎控除の2重どりを狙います。
一度相続時精算課税を選択すると暦年課税制度に変更することができません。
相続時精算課税を選択後は特定贈与者からの贈与は全て申告をすることになります。
ただし、年間の贈与額が基礎控除110万以下の場合には贈与税の申告は必要ございません。
※特定贈与者とは、相続時精算課税選択届出書に係る贈与者をいいます。
相続時精算課税を適用するため「相続時精算課税選択届出書」を提出すると撤回することができません。
贈与を受けた場合贈与税の申告期限までに贈与税の申告が必要です。
特に初年度は「相続時精算課税選択届出書」及び添付書類の提出が必要です。
提出期限までに提出しない場合、相続時精算課税の適用は受けられませんのでご注意ください。
繰り返しとなりますが、ただし、年間の贈与額が基礎控除110万以下の場合には贈与税の申告は必要ございません。
特定贈与者より特定受贈者が先に死亡をすると、税負担について不利になる可能性があります。
土地の価額が最大80%減額される「小規模宅地の特例」ですが、相続時精算課税に係る贈与によって取得した宅地等には適用されません。
相続時精算課税の適用を受けた場合には、農地の納税猶予の特例を使用できません。
農地の納税猶予は相続または遺贈により取得したものに限られます。
安曇野市では相続財産の構成上農地が多いのですが、将来の相続も見据えた贈与が必要です。※1
相続時精算課税を使用して贈与をした場合、相続時の財産に加算されることとなります。相続の前倒しのような意味合いとなります。
従って、相続税申告時の税率で課税されるため、有利不利の検討には詳細なシュミレーションが必要となります。
※相続税がかからない場合、無税(登録免許税・不動産取得税を除く)で資産を移転できる為、有利です。登録免許税・不動産取得税に関しては相続より不利な税率となります。
贈与を受けた財産の価額は、贈与を受けた時の評価額となり、その価額で相続財産に加算されます。
したがって、財産の価値が上昇すれば節税となりますが、下落すれば税負担増加の可能性が生じます。将来値下がりが見込まれる資産について相続時精算課税制度を使用するのは不利となります。
不動産など財産の価値が増減する資産には注意してください。
例えば、5,000万の建物を相続時精算課税制度で贈与したとしましょう。火災でこの建物が焼失すると評価額は0となります。
ただし、相続時に相続税の課税価格に算入するのは、贈与を受けた時の5,000万となります。
逆にこの建物が値上がりしたとしても、相続財産に加算するのは贈与を受けた時の財産の価額、すなわち5,000万円です。5,000万円の建物の贈与を受け、その建物が値上がりし、7,000万になったとしても相続税の課税価格に参入するのは5,000万円です。2,000万円有利となります。
ただし、建物は通常は時間の経過とともに価値は減少していくはずで、何もせずに値上がりをしていくというのは考えにくい現象です。その面ではあまり相続時精算課税制度には向いていません。
ただし、収益物件などを贈与する場合には、その後の収入は受贈者の収入となり、場合によっては所得税・相続税対策となります。
土地を相続時精算課税制度で贈与するのは判断が非常に困難です。周辺の開発計画、人口増減の状況、地域の状況、インフレ、市区町村での用途地域や調整区域の変更、周辺の景観など多種の要因があります。
不動産を贈与する場合、税法上の時価で計算します。一般の時価とは異なりますのでご注意ください。※負担付き贈与を除く
贈与と相続では、登録免許税と不動産取得税の課税関係が異なります。
原則的には贈与の方が不動産取得税・登録免許税は多額になります。
⑴土地
固定資産税評価額に下記の税率を乗じて計算(例外あり)
項目 | 登録免許税 | 不動産取得税 |
贈与 | 2% | 3% |
相続 | 0.4% | 無税※ |
※遺贈・死因贈与を除く。
⑵建物
固定資産税評価額に下記の税率を乗じて計算(例外あり)
項目 | 登録免許税 | 不動産取得税 | ||||
贈与 | 2% | 住宅 | 3% | |||
贈与 | 2% | 住宅以外 | 4% | |||
相続 | 0.4% | 無税※ |
※遺贈・死因贈与を除く。
父母に一定の財産がある場合、どちらか一方が相続時精算課税制度を利用し、残りの一方で暦年課税を利用しましょう。相続時精算課税制度と暦年課税の基礎控除は別物ですので、双方ともに110万の控除が利用できます。
⑴父から110万の贈与を受け、相続時精算課税制度を利用
贈与110万-基礎控除(相続時精算課税制度を利用)=0円 ∴贈与税0円
⑵母から110万の贈与を受け、暦年課税制度を利用
贈与110万-基礎控除(暦年課税制度を利用)=0円 ∴贈与税0円
結果的に子は220万の贈与を受けていますが贈与税は0円となります。又、7年間経過後は相続時に相続財産に加算することはありません。
相続時精算課税制度の概要とメリット・デメリットを述べましたがいかがでしょうか?
相続時精算課税制度は節税のための非常に有利な制度です。
又、生前に相続人に資産を渡したいためにも非常に有用な制度です。
特に相続税がかからない方については相続税・贈与税の負担無く資産を移転できるとても良い制度です。(贈与する額が2,500万以内のケース)
ただし、注意点がありますので十分に注意をして相続時精算課税制度を利用して下さい。理解したうえで使用すれば相続時精算課税制度は非常に強力な制度です。
この記事が皆様のお役に立てれば光栄です。
⑴国税庁HP
⑵図解 相続税・贈与税 大蔵財務協会 中野欣治 編
⑶※1 農地の納税猶予がスッキリわかる本 税務経理協会 税理士風岡範哉
⑴2021年7月24日 初回投稿
⑵2024年10月4日 修正
安曇野市の相続・贈与・遺言なら寺坂誠税理士事務所・行政書士寺坂誠相続相談事務所
当事務所では相続税や相続手続きについてのご相談に積極的に応じています。
相続が発生したが何をしたら良いか分からない、相続人を確定できない、財産が多すぎて把握できない、事前に相続税の節税対策を行いたいなど相続で分からないことがありましたらお気軽にご相談下さい。
※免責事項 損害等の責任について
本記事は執筆時現在の法令に基づき記載されています。
法令の改正によって、本記事とは異なる課税関係となる場合がございますのでご注意ください。
又、税金は、個人の状態により異なる課税関係となる可能性がありますので
実際の適用に当たっては、専門家に相談し慎重な判断で行って下さい。
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